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今日も明日も日本のどこかでサドルにまたがる、慶應医学部2年生。U23ロードナショナルチーム。宜しくお願いします!

カケの医学への道 vol.4

最近寒いですね。色々あって予定よりもシーズンインが早くなるかもしれず、慌てて外に繰り出して練習し始めたわけですが、練習後の冷凍カケは帰宅して解凍されるときの指先の痛さに悩まされています。

 

「クールダウンの生理学」最終回は「運動後超過代謝の減少」「筋痛の予防」です。今回のおはなしは、前回の「乳酸除去の促進」とつながっている話ですので、わからないところが出てきたら是非、前回の記事を振り返ってみてくださいね。

 

復習から入ります。

 

トレーニングで強度の高い運動をすると、ブドウ糖からATPを得る反応のうちの、一番最初の、酸素を使わない経路、解糖系が回って、副産物としてピルビン酸がでてきて、それが乳酸になって筋肉の収縮を抑えるのでした。

 

クールダウンによって乳酸が分解されていくことは前回話しましたが、それ以外にも、溜まっているものがあります。それは、

ピルビン酸

酸素負債

です。順に説明していきます。

 

①ピルビン酸

強度の高い運動で出てきたピルビン酸は乳酸に変換されますが、この反応は即座に起こるものでもないので、実際には乳酸だけでなく、ピルビン酸も溜まっている状態になっています。

運動をやめた後、ピルビン酸がどうなるかというと、前回少しお話ししましたが、解糖系の次の経路である、クエン酸回路に入って、酸素を使ってATPを得る反応に使われます。

 

これは、エネルギーを得る上では良いですが、運動をやめた後、もうそんなにエネルギーは要らないのに、さっき運動したせいで今頃エネルギーが出てきてしまうのでは、困った話です。

実際、この反応は酸素を必要とするので、運動が終わった後も、呼吸数が増加します。熱も産生するので、体温は上がり血糖値も高い状態になります。

一見エネルギッシュで良いように見えるかもしれませんが、トレーニングが終わった段階でアスリートに必要なのは、回復です。活発にエネルギー代謝が起こっている状態は、回復とは相容れない状態で、要するにまだ体が戦闘状態になっているということになります。

 

ダウンをすると、この余剰のピルビン酸を早く消費して、体が回復モードに向かうのを早めてくれます。

 

②酸素負債

実は、強度の高い運動をするとき、人間の体は酸素が不足状態になっています。体から必要とされる酸素量に対して、足りなくなっている分の酸素量を酸素負債とか、酸素借とかいいます。厳密にはこれは2つは違うものですが、ここでは簡単のために同じものとして扱います。

足りなくなっている酸素は、いつかは外から取り入れて補わなければなりません。ということで、運動し終わったあとに、酸素をとってあげましょう、という反応が起こります。これをEPOC(excess postexcercise oxygen consumption, 運動後過剰酸素消費)といい、先程のピルビン酸の話と同じで、これが起こっている間は、体が回復方向に向かわないことが知られています。

実際の実験で、クールダウンを行うと酸素負債が13%減少することが分かっており、酸素負債の減少は換気量の減少を意味するので、体が回復方向に向かいやすくなると言われています。

 

 

これが、「運動後超過代謝の減少」てやつでした。多少難しい表現が多くなってしまいました。

ちなみに、このEPOC、アスリートにとっては回復が遅れるので厄介ですが、反面で、持続的に代謝が高まるので、ダイエット効果があります。長時間の有酸素運動よりも、短時間の高強度運動のほうがダイエット効果が高い、という研究結果もあるくらいなんです。

 

 

さて、最後の効果「筋痛の予防」です。これはみなさん、イメージもしやすいと思います。

激しい運動によって、少なからず筋繊維が壊れます。体の中が怪我をします。筋肉痛の原因になるのは、筋繊維の断裂、結合組織の損傷が主で、運動をし終わったあとに、筋肉がピクピクと動く筋の持続的な痙縮が見られることがありますが、これも筋痛の原因になります。

ゆっくりと筋肉を動かしたり、軽くストレッチをしたりすると、体内で起こっている怪我に対する炎症反応が弱まり、筋痛の予防に繋がります。

 

 

いかがだったでしょうか。4回に渡って「クールダウンの生理学」を見てきましたが、普段何気なく行うクールダウンにも、こんなに意味があったとは、と思われた方と多いと思います。ぼくもそうで、自分でこれを調べてから、ダウンの時間を長めに取るようになりました。笑

これからも、こうして共利的に「かけの医学への道」コーナーを続けていけたらなと思います。ぜひぜひ、たまにのぞいてみてください!